脳卒中(脳血管障害)の発作が起こると、たとえ死亡こそは免れても、程度の差はあれなんらかの後遺症が残ることが多いのが現状です。片麻痺(へんまひ)や失語症、意識障害などです。多くは、急性期をすぎると消滅するのですが、慢性期になっても残ってしまったものを「脳卒中後遺症」といいます。
ある程度病状が落ち着き、回復期になってからの脳卒中の治療、あるいは後遺症の治療に対しては、漢方治療が用いられることがあります。
脳卒中というのは、脳血管障害です。血管そのものが脆弱になっている、血液の成分に何らかの異常があり、血流が流れにくくなっている、固まりやすくなっている、血圧が高い、といったことが原因で、症状が生じたものを考えられます。漢方治療においては、これらの症状を脳の領域だけの問題と考えず、全身の血管や血液の状態と考えます。したがって、血管を強化し、血液の粘りを低下させる、降圧作用がある、漢方薬が用いられます。
漢方治療では、同じ症状でも、患者さんご本人の体力が充実しているかどうか、によっても、薬が変わります。たとえば、同じ片麻痺の場合でも、体力が充実していて口の渇きがある人(実証(じつしょう))は、「続命湯(ぞくめいとう)」という漢方薬をもちいるのに対し、体力が中以下の間証(かんしょう)、虚証(きょしょう)の人で手足が冷える人に対しては、「小続命湯(しょうぞくめいとう)」という漢方薬がもちいられます。
脳卒中の発作の後遺症で、咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)に支障が出ることがあります。
咀嚼に支障があると、物を小さくかみ砕くことができないことから、丸ごと飲み込もうとしてのどに詰まらせたり、消化が悪いので胃に負担をかけてしまうことになります。
また、嚥下というのは、食べ物を飲み込むことをいいます。嚥下に障害があると、のどにつまったり、むせ返りを起こすことになります。
これらの障害に対しては、その症状の程度に応じて、調理を工夫します。
1.水分、および水分が多いものは、むせやすいのでとろみをつけます。
脳卒中の場合、水分補給は非常に大切です。なめらかで適度な粘土があると、嚥下に支障がある場合でも比較的、のどを通りやすくなります。
温かい料理では、片栗粉やコーンスターチ、牛乳や生クリーム、あるいは卵を用いてとろみをつけたり、固めたりします。
冷たい料理では、ゼラチンや寒天を用います。
逆に、パンなど、ぱさつきやすいものものどごしが悪いので、パンに卵液を吸わせたり、ごはんはおかゆにします。
2.食べ物は、細かく刻むか、すりつぶします。
咀嚼、嚥下の支障の程度に応じ、細かく刻むか、すりつぶして半流動状にします。すりつぶす際には、野菜の場合は、加熱してからすりつぶし、肉類は逆に、すりつぶしてから加熱すると、口当たりがよく、なめらかな仕上がりになります。
3.甘みをつけるのも一考です。
甘みがあると嚥下しやすくなるといいます。また、食欲がない場合には、間食でエネルギーを補給する必要があるので、ゼリーなどが良いでしょう。
脳卒中(脳血管障害)の3つ、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血のなかでは、もっとも発生率が低く、また死亡率が少ないのは、くも膜下出血です。また手術でなおる可能性もいちばん高い病気です。
くも膜下出血の予後は、再破裂と脳血管攣縮(くも膜下出血のあとに、動脈瘤近くの動脈が痙攣したように収縮する症状)といった合併症によって大きく左右されます。また、くも膜下出血の場合、内科的治療では根本的な治癒は望めません。たがって、病人の状態がさほど悪くなくても、急性期に即、手術をしてしまう傾向が強くなっています。
最初の破裂後に、即、手術を受けることができれば、再破裂の可能性はなくなります。再破裂をした場合、50パーセントは、死亡するといわれています。また、たとえ命は助かったとしても、重篤な後遺症が残ります。したがって、脳卒中(脳血管障害)の場合はいずれもそうですが、くも膜下出血の場合は、特に、発作後、すぐに救急車を呼び、脳神経外科のある専門の病院で治療を受けることが極めて重要なのです。
また、脳血管攣縮は、動脈瘤破裂後、5~10日くらいに起こる可能性があります。くも膜下出血を起こした患者さんの約30パーセントにみられます。脳血管攣縮が起こると、手足のまひや、意識障害、失語症といった症状が現れます。重篤な場合には、後遺症が残ったり、死亡するケースもあります。
動脈瘤の破裂を導く危険因子は、高血圧、喫煙、飲酒です。日ごろからの節制が、破裂を防ぐ、最大の予防になります。
脳卒中(脳血管障害)の発作後、幸い死亡は免れたとしても、重篤な後遺症が残る可能性があります。また、再発の不安を抱えての生活となる場合が多く、生活の改善が求められます。
脳卒中(脳血管障害)の3つ、脳出血、脳梗塞、くも膜下出血について、どのような生活を心がけることがその予防、再発の防止、後遺症の改善となるか、いくつかポイントを示します。
脳出血
脳出血を招く、最大の原因は、高血圧です。したがって日ごろから血圧が高めの人は、食事療法や運動療法、薬物療法で血圧をうまくコントロールすることが非常に大切です。食事療法は、主に、塩分制限となります。そのほか、発作のおきやすい状況を避ける、改善するような環境の整備も必要です。発作は、真夏や真冬、入浴中、用便中に起きやすいことから、寒い時期にはお風呂場を湯気で充分に温める、用便で力まない、などを心がけます。
脳梗塞
脳梗塞においても、高血圧が大きな誘因となります。食事療法(塩分制限)や薬物療法による、血圧コントロールは脳梗塞を防ぐとともに、再発を予防する対策になります。また、脳梗塞の場合、喫煙、飲酒も控えます。経口避妊薬も脳梗塞の発病を促すといわれます。
くも膜下出血
くも膜下出血では、動脈瘤の発生や破裂、再破裂をいかに防ぐかが課題です。そのためには、血圧コントロールが重要であるほか、喫煙、飲酒の抑制も必要です。動脈瘤は、破れる前に発見された場合には、その大きさや症状、患者さんご本人の年齢や体力から、手術の是非を検討します。
脳卒中の発病後の食事のポイントとして、充分な水分を補給することがあります。
水分は、血液循環を良くし、血液の凝集能(血液が固まる作用)を抑制するのに重要なはたらきをします。そのためたっぷりの水分を摂取する必要があります。また、脳卒中の後遺症で摂食障害が残り、全体的に食物の摂取が減ると、水分の摂取が少なくなり、脱水症状をおこしやすくなるため、意識して水分を補給することが大切になります。
(ただし、アルコールや甘いのみものは、肥満の原因となりますので、控えめにします。)
しかし、脳卒中の後遺症で、摂食障害、特に嚥下(えんげ・・・食べ物を飲み込むこと)に障害がある場合、水分、および水分が多いものは、むせやすいので、注意が必要です。むせ返りを防ぐためには、水分にある程度の濃度があるほうが良いようです。
温かい料理の場合は、たとえばスープなどは、片栗粉でとろみをつけたり、卵や牛乳を加えて濃度を増す工夫をします。
コンソメスープよりも、ポタージュスープのほうが、とろみがあって、嚥下したすいでしょう。また、茶碗蒸しは、咀嚼に障害がある方でもおいしくいただけますし、栄養もあって、お勧めです。
冷たい料理の場合は、ゼラチン寄せや寒天寄せにしてはどうでしょう。甘いデザートとしてに限らず、白身の魚や鶏のささみ肉をゆでてほぐし、コンソメ味のスープで煮てそのままゼラチンで固めると、栄養豊かな主菜になります。
また、熱すぎるものや逆に冷たすぎるもの、酸味のあるものは、むせやすいので、避けるようにします。
脳卒中の最大の誘因となる高血圧を予防、改善する際に、避けて通れないのが、塩分の抑制です。食塩を取りすぎると、ナトリウムの作用で細胞外液量が増え、その結果、血液量が増え、血管内圧が上昇し、末梢血管の抵抗が高まり・・・血圧を上昇させて高血圧となるのです。
脳卒中を発病したら、1日の食塩の量は7グラム以下に抑えるのが基本です。そのためには、塩分の多い食品を避けることが必要です。また、料理全体を薄味に仕上げることも大切でしょう。ただし、塩分は食べ物のうまみに非常に大きくかかわっていますから、すぐに、薄味に慣れることは難しいかしれません。塩分に頼らずに食事をおいしくいただく工夫をするようにしましょう。
減塩のコツ
1.塩分の多い食品は避けましょう。
・魚の干物(アジの開き、目刺し、塩鮭、など)、練り製品(はんぺん、かまぼこ)、イカの塩辛、たらこ、漬物、梅干、ハムやソーセージ、などの加工食品には、非常にたくさんの塩分が使用されています。
・味噌汁も塩分が多いです。一日一杯にし、具だくさんの薄味にしましょう。
・スナック菓子は、塩分も脂肪分もたっぷりです!
2.麺類のスープは残しましょう。
ラーメン、うどん、そば、など、麺類の汁やスープは残すようにします。
3.調理に工夫を!
・酸味や香りで味に工夫をしましょう。おしょうゆの代わりに、酢や、ハーブなどの香りでおいしくいただきます。
・献立に味付けにメリハリをつけましょう。すべてを薄味にするよりも、メリハリをつけたほうが満足感があります。